安倍晋三首相のビデオメッセージが意味するもの

すでに旧聞に属することであるが、201753日、安倍首相は都内で開かれた改憲派の集会にビデオメッセージを寄せた。このメッセージが公表されて以来、改憲派護憲派双方にて改憲論議が加速した。今後の改憲論議の行く末を左右する重要な存在となったこのビデオメッセージの主旨と意義について記したい。

安倍首相によるビデオメッセージの主旨

このビデオメッセージで表明された主旨は以下の通り。なお、このビデオメッセージについて、安倍首相はあくまで「自民党総裁」としての発言であることを冒頭で言明している。

 

  1. 2020年を「新しい憲法が施行される年にしたい」と明言
  2. 「『自衛隊違憲かもしれないけれども、何かあれば命を張って守ってくれ』というのは、あまりにも無責任だ」
  3. 自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置付け、『自衛隊違憲かもしれない』などの議論が生まれる余地をなくすべきだ」

そもそも自衛隊違憲か?

上記のように、このビデオメッセージでは、「自衛隊違憲かもしれない」という発言が二回出てくる。そして首相は、「自衛隊違憲かもしれない」といった議論の余地が無いよう、憲法自衛隊の存在を明記するとしている。では、そもそも自衛隊は首相発言のように「違憲かもしれない」存在なのだろうか。

ここで一度、憲法9条を確認することとする。

第九条  

日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

第二項  前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

このように、憲法9条2項の「戦力の不保持」に自衛隊は違反している可能性が大いにある。というのも、自衛隊は誰がどう見ても軍隊だからだ。そして軍隊というのは戦力に他ならない。

 

A.自衛隊は軍隊である。

B.軍隊は戦力である。

C.ゆえに、自衛隊は戦力である。

 

したがって、自衛隊の存在は9条2項に抵触している疑いがある。

政府解釈の言う自衛隊の「実力」は戦力ではない?

もちろん、もし自衛隊が本当に違憲であれば、自衛隊は存在出来ないはずである。自衛隊が存在できているのは、自衛隊は合憲だとする政府解釈によるものである。この政府解釈とは、「自衛隊は『自衛のための必要最小限度の実力』である」とするものだ。つまり自衛隊はあくまで自衛力であり、戦力ではなく、9条2項の「戦力の不保持」には抵触しないということである。

しかし、自衛隊はたとえ自衛のための「実力」に限定されようとも、その「実力」の実態は軍事力であり、軍事力が戦力ではないというのは詭弁でしかない。このように、自衛隊は「実力」であり戦力ではないという危うい政府解釈一つによって、現在、自衛隊はかろうじて合憲の存在なのである。

将来もしこの政府解釈が閣議決定で変更されたら、自衛隊はその瞬間、名実ともに違憲の存在となる。このように、日本の安全を守る自衛隊の存在は、憲法上極めて危うい存在であり、我が国の安全保障上、極めて危機的な状況である。

安倍首相メッセージの意義

したがって、安倍首相が「(自衛隊は)違憲かもしれない」と発言したことは、この危機を脱するための重要なステップとなる。自衛隊違憲可能性を認めることで、問題のある現行憲法を現実に合わせるべく改正しようとするアプローチであり、まさに正攻法である。

これまで自民党は、憲法改正について「アメリカが作った押し付け憲法だから変えよう」などと繰り返し発言しており、憲法改正論議歴史観の論争に傾いていた。政権を担っている与党としては、「自衛隊違憲だ」などと言えないという事情があったためとも言える。

政権与党の総裁が自衛隊を「違憲かもしれない」と発言したのは、リスクのあることではあるが、首相の発言は、今後の憲法改正論議の上で、極めて意義が大きい。今後は「押し付け憲法論」などの不毛は論争は抜けだして、「自衛隊は合憲なのか?」「違憲の可能性があるなら、憲法を変えようではないか」という方向に議論が進むことが期待できる。

 

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